【No.038】ある夜の出来事【覇王樹氏作】


「うわ・・・」
軽い嫌悪の色を混ぜて少女がうめいた
彼女はフレイムヘイズ"炎髪灼眼の討ち手"シャナ、何故か彼女の契約者である紅世の王"天壌の劫火"アラストールがその場にはいなかった
今見た光景が幻であることを願うように目を閉じる
そして再び開けた
「うわ・・・やっぱりいる・・・」
今出来れば一番会いたくなかった相手、その相手である画版をいくつも重ねたようなごつく、巨大な本と縦長い木箱を持つ美女がこちらに歩いてきた
彼女はシャナと同じフレイムヘイズ“弔詞の詠み手”マージョリー・ドー
「あら、チビジャリじゃないの。ユージは一緒じゃなのね、珍しい」
そして彼女の持つ本、彼女の契約者である紅世の王"蹂躙の爪牙"マルコシアスの意思を顕現している神器"グリモア"からけたましい笑い声が漏れた
「ヒャーハッハッハッハ!!しかもあの堅物大魔人までいねえじゃねえかよ!!珍しいこともあるもんだ、い〜ったいどうしたんだい、嬢ちゃん」
一番言われたくないことを言われたシャナはややムスッとしながら
「ふん、別にお前たちに言う必要はないわ」
と言うとマージョリーがふと気付いたように
「そういえば"万条の仕手"が"天壌の劫火"に話したいことがあるって言ってたわねぇ」「それで追い出された訳かぁ、ヒッヒッヒッ、か〜わいそうにな〜」
「んでその不機嫌な自分をユージに見られたくないから一人でいる、ってとこかしら?」
見事なまでに自分が不機嫌な原因、一人でいる理由を的確に当てられたシャナは彼女らにいらない情報を与えた彼女の元養育係であるフレイムヘイズを恨みながら
「うるさいうるさいうるさい!!何でお前たちにそんなこと言われなきゃならないのよ!?」
声を荒げた言った
「あーもー、これだからお子ちゃまは・・・」「女のヒステリックはみっともないぜぇ?ヒヒヒヒ」
それでもシャナをからかうのをやめようとしない二人に対してシャナはできるだけ冷静を保って
「ふ、ふん。何よそっちこそ珍しく外で見掛けたと思ったら・・・どうせそれお酒でしょ?お前、そればっかりね」
とマージョリーが持っている木箱を指差しつつあからさまな挑発をした
今度はマージョリーが不機嫌な顔をし
「勝手に酒買いにきただなんて決めつけないで欲し「ヒャーハッハッハッハッハァ!!ばれちまったなぁ、注文してた酒を取りに行ったのがよぉ」
弁解を途中で遮られたマージョリーは
「うるさい!!バカマルコ!!」
"グリモア"をバンッと殴った
「ふん、どうせ頭の中までアルコール浸けになってるんじゃないの?」
シャナがトドメの一言を放ったがマージョリーは激昂もせずに平然とし、わざとらしく言った
「そうよね〜、酒の事何にも知らないんだから何と言われても仕方ないわね〜。どうせ飲めもしないんでしょう?だってお・こ・さ・ま・だもんねぇ?」
「おこっ・・・!!べ、別にお酒くらい飲めるわよ!!」
その言葉を聞きマージョリーは意地悪な笑みを浮かべ
「じゃあ・・・勝負する?」
「勝負?」
「そ、勝負」
片手に持った木箱を軽く持ち上げながらそう言った


夕暮れ時、坂井家の自室で"ミステス"坂井悠二は何をするでもなくぼーっとしていた、すると下から彼の母である坂井千草の声が聞こえた
「悠ちゃん、佐藤君から電話よー」
(佐藤から?一体何の用だろ?)と思いつつも階段を降り電話を受け取る
すると悠二の友人である佐藤啓作のやや弱った声が聞こえてきた
「坂井〜、シャナちゃんのこと迎えに来てくれよぉ」
「迎えにって、シャナが佐藤んちで何してるんだ?」
「それがさぁ、マージョリーさんと大変なことになって・・・とにかく早く来てくれよ、じゃあな」
「ちょ、ちょっと待てよ!!シャナがどうしたんだ!?」
しかし既に電話は切れていた
悠二の脳裏に嫌な予感が浮かんだ、以前あの二人のフレイムヘイズは激しい戦いをこの御崎市で繰り広げた
一応和解はしたが決して仲が良い訳ではない、そんな二人が何かが原因でまた衝突したら・・・と
「母さん!!ちょっと出かけてくる!!」
「あら、どこに行くの?」
「シャナを迎えに!!」
「あらあら、そんなに急がなくても平気じゃない?」
「そんな悠長なこと言ってたら佐藤んちが地獄絵図になってるかもしれないんだよ、行ってきます!!」
「?いってらっしゃい。」不思議そうな顔をしている千草を置いて急いで佐藤家に走っていった


一人妙な勘違いをして、
(冷静に考えれば封絶が構築された気配が感じられない時点で2人が戦っている筈はないのだがこの時の悠二にそんな事を考える余裕はなかった)


佐藤家に到着した悠二はインターホンも鳴らさずにドアを空けた
「シャナ!!」
すると奥から少しよろけながら佐藤がでてきた
「おう・・・坂井。シャナちゃんならそこの室内バーにいるよ、俺じゃ手に負えないんだよ・・・頼む坂井・・・」
「わかった、僕が止めてみるよ・・・」
勇みつつ、室内バーのドアノブに手を掛け一気に押し空けた
「シャナ!!マージョリーさん!!バカな真似は・・・って臭ぁ!?」
室内バーに入った悠二が最初に感じたものは物凄い酒気を帯た空気
最初に聞いたものは二人の女性の笑い声と偉大で強大な筈の紅世の王の悲鳴
最初に見たものは上機嫌で抜き身の刀を振り回す炎髪灼眼の少女と巨大な本を振り回す美女
違う意味で地獄絵図だった
「いつもより多く回すわよ〜!!」「ひぎゃあああぁぁぁ!!た、助けてくれぇぇぇ!!」
「アハハハハ、面白い面白〜い♪」
眩暈を起こして倒れそうなのをなんとか堪えた悠二は
「と、とにかくまずは止めないと、シャナやめるんだ危ないだろ!?マージョリーさんもホラ、マルコシアスが苦しんでるから!!」
と言うと二人の酔っ払いもといフレイムヘイズが一斉に悠二を睨んだ
「ひっ!!」
さっきの威勢は何処にやら、いつもの悠二に戻ってしまった
しかしシャナは相手が悠二だとわかるとまた上機嫌になり
「あ〜、悠二だぁ、やほ〜」
彼女の持つ大太刀“贄殿遮那”を振り回しながら楽しそうに言う
「ちょ・・・シャナ、危ないから!!まずは刀をしまって、ね?」
と言うといやに素直に
「はーい、解りましたぁ」
と言い“贄殿遮那”を彼女が身に付けている黒衣“夜笠”にしまう
「ん?ところでシャナ、アラストールはどうしたんだ?」
言った次の瞬間、シャナの両目に大粒の水の球がたまって
「アラストールったらね、ウィルヘルミナと話があるからって、私の事追い出したの、酷いよ・・・ふぇ〜ん」
「そ、そうか、大変だったね。とにかくシャナ、泣きやんで、ね?」と慰めていると
横からマルコシアスが
「ヒッヒッヒッ、色男は大変だねぇ」
と茶々を入れた
「マルコシアス、助かったんだね。よかった、ところでマージョリーさんは大丈夫なの?」
横になりながらうめいているマージョリーを指差したながら尋ねた
「ヒヒヒヒ、我が酒乱の美女マージョリー・ドーがこんなことで参るかよ。ところでさっきは助かったぜぇ、ありがとよ」
「どういたしまして、ところで何で事になったかを説明してくれないか?」
マルコシアスが簡単にこれまでの経緯を話すと悠二は納得して
「成程、それでマージョリーさんからの飲み比べの勝負を受けてこんな事にね」
「ヒッヒッヒッ、我が大人気ない酔っ払いマージョリー・ドーが迷惑かけてすまなかったなぁ」
マルコシアスは全く申し訳なさそうではない口調で悠二に詫びた
「まあ仕方ないよ、挑発に乗ったシャナも悪いしね」
と言うと
シャナがまた泣きそうになった
そんなシャナと
「そ、そうだよね!!シャナは悪くないもんね、わかってるよ、うん」
焦る悠二のやりとりを見ながらマルコシアスが
「よーよー、ご両人、いつまでもそんなんじゃ埒があかねえぜ。今日のところは帰ったらどうだい?」
と助言してくれたので
「あ、あぁそうさせてもらうよ。色々とありがとうな」
「ヒヒヒ、いいってことよ」
「うん、じゃあシャナ、帰ろうか」
「嫌〜♪」
「え?嫌じゃなくて帰ろうよ」
「や〜、お願いしますは〜?」
「はぁ・・・仕方ない、お願いします、一緒に帰ってください」
「いいよ〜、その替わり私のお願い一つ聞いてね」
「お願い?」
「そ、お願い、えへへ〜♪」
少女は満面の笑みでそう言った


満月の月の下、少年が少女を背負って夜道を歩いていた
「お願いって何かと思えばおんぶしてだなんて」
悠二がぼやくと
「何よ、何か悪いの?」
とシャナが膨れるので悠二は苦笑しながら言った
「いえ、なんでもないですよ、お姫様」
「なんか悠二私のこと適当にあしらってない?」
「そりゃあさっきよりは大分マシになったけど酔っ払いの相手をまともに相手してちゃ・・・ってあたっ!!」
かなり強めでシャナに頭をぶたれた
「何すんだよ!!今シャナ酔っ払ってて力の加減できないんだから・・・痛っ!!」
「アハハハハ、悠二が怒った〜。それに私は酔ってなんかないわよぉ♪」
と酔っ払いの常套句を口にする
「はいはい、わかりましたよ・・・」
と言いそれ以降お互いに暫く黙って歩いていると不意にシャナが絡める腕の力を強め抱きついてきた
「いっ、シャナ!?」
「悠二あったか〜い♪」
「や、やめろよな!!」
「あ、悠二変な想像してるでしょ〜?」
「な、何言ってんだよ!?そ、そんな訳ないだろ!?」
顔を今のシャナ以上に真っ赤にさせて悠二は言った。しかしシャナはその後何も言わなかった、二人の間にしばし静寂が流れる。
少し心配になった悠二はシャナに声をかけた
「シャナ?」
「悠二・・・」
「何?」
「私悠二に言いたいことがあるの・・・」
「うん」
「私、私悠二の事が・・・」
悠二は自分の胸が熱くなるのがわかった
あれだろうか、あれなのだろうか、いや、あれしかないのではないか?
心臓がこれ以上ない位の速さで鼓動を打っている、悠二はシャナの言葉をただ、じっと待った
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「あの・・・シャナ?」
「・・・スー・・・スー」
・・・・・・寝ている
「ね、寝言かぁ!?」
まだ心臓がバクバクしている
「なんだよ・・・びっくりさせて・・・」
恥ずかしさをまぎらわすために独り言を言う
「こんな無防備な状態じゃ何されたって文句言えないぞ」
と軽い憎たれ口を叩いたつもりだった、が
言ったタイミングが少々、いや、大分まずかった
急に背中に寒気とおぞましいほどの殺気を感じた
恐る恐る後ろを振り向くとそこにはメイド服の女性が立っていた
彼女はフレイムヘイズ"万条の使手"ヴィルヘルミナ・カルメル
ヴィルヘルミナは悠二を冷たく見て一言
「その方をこちらに渡すであります」
「即刻」
彼女のヘッドドレスから彼女の契約者である"夢幻の冠帯"ティアマトーの感情の起伏のない声が聞こえた
シャナを手渡しながら悠二は聞いた
「あ、あのなんでこんな所に?」
この質問にはヴィルヘルミナでもティアマトーでもない別の、まるで遠雷のような声が響いた
「簡単なことだ坂井悠二、“弔詞の詠み手”からこの子が酒を飲んでお前が送ってくると連絡が入ったのだ」
ウィルヘルミナが首から下げているペンダント"コキュートス"からの声だった
「ア、アラストール、あんたもいたのか」
「いて悪いか?」
「いや・・・そんな事は」
さっきから悠二は気付いていた、三人の言葉の節々から不穏な気配が感じられたこと、そしてその理由を・・・
早く弁解をしようと思ったがすでに遅かった
「あ、あのさっきの言葉は冗」「お前では不安なので迎えにきてよかった、さて坂井悠二、聞くがこの子に何をしようとしていた?」
「だからあれは冗談で本気じゃなかっ」「どうやら本音を言うつもりはない様子でありますな」「即刻仕置」
ヴィルヘルミナの周りに無数のリボンが浮かび桜色の火花が舞いだした
(や、殺られる!?)
直感的に感じた悠二はとにかくなんとかして三人の怒りを静めようとした
「あれは、「問答無用「今回は峰では済まんぞ」
必死の言い訳は直ぐ様二人の“紅世の王”に潰される
「ぎゃ、ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!」
幸せそうに眠る少女とは裏腹に哀れな少年の断末魔が夜空に響いたのだった




〜管理人の一言〜
良い感じで灼眼のシャナ特有のドタバタコメディ感が良く出ていると思いました。
酔った、いや泥酔したマージョリー姐さんはいつもですが酔ったシャナは初めてですよね?(聞くな
そう、普段ツンツンしてる娘は酔えば甘えんぼさんになるのです!!!これは真理です!!!・・・失礼
これを読んだ皆さんも酔ったシャナを創造・・・無理ですね 想像してください
実は初投稿作品、そして投稿日が12/3だったりします・・・えーっと・・・遅くなってごめんなさい
メモ帳なんですわかって下さい・・・言い逃れです(爆
管理人の怠惰にこりず次回投稿をお待ちしておりますw
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